治療結果と治療予測を比較

治療目標を持たないで治療をすすめると、「治療結果が治療目標であった」となりがちで、私たちのグループではたまたま良い結果がでた場合も、またでなかった場合でも原因がどこにあるのかを考えるためのフィードバックする機能が必要と考えました。

そこで治療前に治療目標を参考にして患者の最適な状態を予想し、そのことを実現するための治療のシュミレーションを行い、さらにそれを治療結果と比較する過程を繰り返し行なっています。

毎年開催されるスタディクラブのミーティングでは参加者全員が症例発表し、皆で相互に診断・治療過程の検討・考察を行ないます。これの積み重ねがクラブメンバーの診断力、そして治療技術の向上につながっていると確信しています。

矯正治療前

第2大臼歯の萌出開始を経過観察

11才女子。歯の叢生を気にしています。2年前に初診で来院してから、第2大臼歯の萌出開始を経過観察しています。 

治療前の予測

治療前に治療予測を設定すると前に述べました。子供の場合はさらに成長を含める必要があります。

下図A:治療前の顔貌からどのように歯を移動すれば最適な状態が得られるか、成長を考慮した予想がCで(黒のラインはA:治療前、赤いラインは治療予測)、Cをもとにコンピューターが描いた側貌がBです。口元がとてもすっきりしました。小臼歯4本抜歯し、この治療計画で治療をすすめることになりました。

Cのトレースをよく見てください。Bが口元がすっきりしたのは前歯とそれに伴なう唇が抜歯したスペースへ後ろに引かれたためと思いませんか。しかしCのトレースで前歯と唇自体の位置は大きく変わっていません。それより大きく変化しているのは大臼歯の位置と下顎自体が反時計回りに2゜回転し、オトガイの位置が前方に出たため、口元がすっきりしました。

治療前の予測

VTOと治療結果の比較

下図Bは治療予測(VTO)、Dは治療終了時の顔貌です。Eは治療予測:VTO(赤いライン)と治療結果(青いライン)の比較です。予測より下顎の成長が少し大きいことを示しています。

治療前の診断では下顎の成長があまり多くない骨格パターンでしたが、予測に反した良い下顎の成長が得られ、よりバランスのとれた顔貌となりました。従来の矯正学の診断では下顎の成長があまり多くない骨格パターンの患者であっても、顎関節に負担をかけない矯正治療は良い下顎の成長を引き出せる可能性があるのを実感できた症例でした。

VTOと治療結果の比較

矯正治療終了時

矯正治療終了時

2年の矯正治療終了時です。歯の審美的な配列が得られましたが、同時に顔立ちもよくなりました。

矯正治療終了時より8年後

矯正治療終了時より8年後

矯正治療終了時より8年後の状態です。治療結果は安定しています。この安定は顎関節と咬合の調和がとれていて、顎関節、筋に負担がかかっていないことを物語っています。

CT

彼女は治療を通して歯科に興味を持ち、歯科のアシスタントの道にすすみました。顎関節や歯の健康に高い関心があり、CTで顎関節と歯と歯槽骨の様子をチェックしてみました。すべての歯は歯槽骨から出ることなく歯槽骨の中に植立し、顎関節も健全な状態が確認できました。すべての歯が歯槽骨の中に納まっていることは歯周組織の長期の安定につながります。

矯正治療は4つのエリア(顎関節、顔の美しさ、機能的な歯並び、歯周組織)に影響を及ぼします。矯正治療はよくも悪くもこの4つのエリアに影響し、また、それぞれにおける目標を達成することで患者個人の最も良い状態に導くことが可能となります。私たちグループは顎関節ファーストの診断を通して隠れている問題を明らかにし、矯正治療においては影響を及ぼす4つのエリアに配慮した治療目標を設定、最適なメカニクスの選択、治療結果と予測の比較を地道に繰り返し、臨床力を磨いています。